「欧米の悲劇:東洋の“原子力”、西洋の“原始力”」

マイク・ビリントン
2010年1月14日 (EIR)

nuclear power混乱を極める国際的経済危機の最中、ロシアを含むアジア全域は、先進国に誇りを、また発展途上国には希望を与え得る原子力発電の事業を、急速に推し進めています。旧植民地諸国は原子力導入への自然な権利を、西欧、特に大英帝国の植民地政策により剥奪され続けています。

マイク・ビリントン
2010年1月14日 (EIR)

nuclear power混乱を極める国際的経済危機の最中、ロシアを含むアジア全域は、先進国に誇りを、また発展途上国には希望を与え得る原子力発電の事業を、急速に推し進めています。旧植民地諸国は原子力導入への自然な権利を、西欧、特に大英帝国の植民地政策により剥奪され続けています。アイゼンハワーとケネディー両大統領が語る“原子力の平和的利用”(Atom-for-Peace)は、発展できず貧困を強いられた状況から抜け出し、無限に近いエネルギーを配給する原子力テクノロジーを約束していましたが、1970年以降、組織的に解消へ追い込まれることになります。これは英国のフィリップ殿下等が捏造した、いわゆる“環境保護運動”と、核拡散防止には原子力そのものの完全放棄が絶対条件であるという“神話”に偽装された“まやかし”が、下地となっているのです。今日、アジア諸国は、この世界的、また“英国的”反核傾向を拒絶し、長期的発展を目的とした原子力エネルギーの共同事業を推し進めているのです。

残念ながら、西洋は未だ大英帝国の“肥やし”にされているといわねばなりません。現在アジアの国々は43基の原子力発電機を建設中であるにもかかわらず、その他の世界各地は、総合しても12基にしか及びません。米国にいたっては、一時期は原子力発展の第一人者であったにもかかわらず、1980年代に一時停止されていたテネシー渓谷機構の原子力発電事業を完成させた例以外に、全く存在しないのが現状です。西欧全土では、現在たった2基しか建設されておらず、ドイツとスウェーデンにいたっては、この度の世界経済の崩壊にもかかわらず、原子力発電を全機停止する計画さえ検討されているのです。

米国では、核科学者、原子力工学者等224人が、オバマ大統領の科学顧問でありながら科学を否定し、人口削減、反核などを掲げるジョン・ホールドレンに非難の手紙を送るなどの講義を行っています。ホールドレンによれば、米国は世界に遅れを取っていると語っていますが、科学者たちはこう主張しています:
「わが国は、20年もしくは50年後ではなく、今すぐ前進しなければなりません。今なら、まだ科学および工学の技術者たちが、次世代の若者を導くことができるからです。全世界が原子力を推し進める中、アメリカがこれ以上原子力の公益を足止めすることは、政治的にも経済的にも、また技術面においても、正当化し得ない“過ち”なのです。」
これに反し韓国は、今年1月13日、40兆円相当の原子力発電機(80基)を2030年までに輸出することを決定しており、更に同国は世界第六番目の“原子力輸出国”の地位に伸し上がり、アラブ首長国連邦に4基の原子力発電所を建設する契約を取り付けているのです。

リンドン・ラルーシュ氏はこの情勢を次のように評価しています:
「大西洋岸の地域は、文明としては崩壊の過程にあり、自滅を余儀なくされています。しかし、太平洋岸、特にアジア地域は、インド洋にいたるまで文明の進展をもたらしています。太平洋岸の経済は、原子力を多大に普及しつつあるにもかかわらず、大西洋岸は原子力廃止を訴え、狩猟と採集の生活水準に遡りつつある腐敗した状況なのです。」

道をひらくロシア

2009年10月13日、ロシアのウラジミール・プーチン首相は北京を訪れ、長期にわたる原子力および高速路線を敷く事業を共同で行うことに合意しました。これは、今日のアジアの兆候であり、これに似た協定が、インド、ロシアさらに中国の間で結ばれています。この三国による共同事業は、中国が保持する巨大なドルを担保としており、ラルーシュ氏が提示し続けている“四大国協定”、すなわちロシア、インド、中国、アメリカ間の協定に踏み込む歴史的出来事であり、現在破綻しきった世界経済基盤にかわる経済体制を築くのに欠かせない基盤なのです。

アジアは、ヨーロッパの帝国政策により引き裂かれ略奪された歴史的経験があり、また冷戦時にも同じ苦渋を飲まされたことは周知のとおりです。今日、ユーラシアの国々は有史以来初めて相互の利潤を旨とする大事業を掲げ、それを全地域の発展の最も有効な手段として受け入れています。しかし、欧米諸国が、今度の世界経済危機をもってしても、ユーラシア諸国による物理経済復興事業に協力しないのは、なぜなのでしょうか。

ロシアは中国に対し、連雲港市(れんうんこう-し) にある「田湾原子力発電所」の援助増加と、現在のエネルギー生産に必要な原動力を配給する発電施設(Breeder Reactor)を二基建設することを約束しています。更にロシアは、中国に必要なウラン精製所を建設し、ウランの配給をも行っています。

インドの長期にわたるロシアとの経済関係は、冷戦の終結とソビエト連邦崩壊により、数年の間停止状態となっていましたが、現在この関係は正常化され、急速に発展しています。ロシア国立原子力会社「ロスアトム」の主席セルゲイ・キリイェンコ氏は12月の会談でプーチン首相に対し、自国のテクノロジーを駆使し12基から14基の原子力施設を、個別にではなく、“一連の事業”として配給することを掲げました。更に、キリイェンコ氏は、ロシア原子力産業が原子力施設の大量建設を再開することを計画していることを述べ、その実現への決意を伝えました。ロシアは今年(2010年)から毎年一基の速度で新たな原子力施設を設ける案を可決しており、この計画はロシアのロストフ原子力施設2基、イランのブシャー施設、更にインドのクダンクラーム施設を含んでいます。

ロシア原子力センター「クルチャトフ財団」の副主任であるニコライ・ポノマリイェフ・ステプノフ氏は、ロシア情報誌Regnum.ru に対し、次のように語っています:
「つい最近のインド訪問で気が付いたのは、この国はエネルギー問題について真剣に取り組んでいるということです。インドは未来を考えており、我々もそれに習うべきなのです。我々が建設する原子力発電施設は、インドが2070年まで必要とするエネルギーを供給することになるのです。つまり、我々は未来の新たな原子力テクノロジーを模索せねばならず、そのエネルギーを保障する義務があるのです。言い換えれば、核燃料の完全サイクルを伴うエネルギー配給施設の普及であり、この分野でのインドへの協力を惜しまないことです。この過程で、電力の供給は基より、電気自動車および水素ガス燃料電池車の燃料を配給することも、可能となるでしょう。即ち、新たな原子力の分野である水素エネルギーを発展させる必要があるのです。」

プーチン首相は2009年12月3日のウェブ講演で、ある技工士からの質問にこう答えています:
「我々は今、原子力の発展についての壮大な計画を立てています。ソビエト連邦時代、我々は35から38基の原子力施設を建設するに止まりましたが、これからの数十年で、30から32基の施設を軌道に乗せることになります。これは破格の事業となるでしょう。ロシア国立会社「ポスアトム」には十分の財力があり、我々は更なる援助を行っています。」

ポスアトムは既に、70から250メガワットのエネルギーを生産することができる水上原子力発電所の“処女航海”を企画しています。この技術はロシアの原子力潜水艦および砕氷船をモデルとしており、近々大量生産され、平底の荷船等に乗せられてエネルギーが直ちに必要な地域へ送られ、20万人規模の町へ十分な電力と脱塩化処理を行うことになります。第一号機は今年から製造が開始されることになっており、多くの国々が期待を寄せているのです。

中国とインド

現在、中国は11基の原子力施設を保有しており、アメリカの104基には及びませんが、建設中の施設は20基と、その勢いは増し続けています。更に、ロシアは建設中のものが9基と中国に続き、韓国は6基、インドは5基と、その数は飛躍的に伸びており、中国の原子力エネルギー生産量は2020年までに60ギガワット、即ち6倍に、また2030年までに更にその3倍になると予想されています。世界原子力機構(World Nuclear Association)によると、中国は現在その原子力施設の多くを輸入に頼っていますが、近い未来に、Westinghouse AP 1000 を基準として、そのデザインから建造に至るまで、全て自給自足で行う計画を立てています。更に、中国は核燃料の“完全利用サイクル”を発展させており、ロシア産の核燃料精製機および配給施設等を導入させるなど、努力を続けているのです。

インドは18基の原子力発電所をもっており、その内16基は国内産です。原子力テクノロジーを自ら立ち上げたインドは、国際反核マフィアによる脅しを払いのけ、未だに核拡散防止条約への調印を拒否しています。彼らは、原子力への権利を保持しつつ、全世界が核兵器撤廃条約に同意するまで、核兵器を維持する権利も厳守しています。インドは原子力の燃料となるトリウムの世界有数の産地であり、トリウム・サイクル原子炉の技術においての先駆者でもあるのです。

更に、インドは20ギガワットの原子力エネルギー生産を2020年までに、またその三倍を2032年までに達成することを掲げており、2050年までには国内電力の25%を原子力発電に委ねる計画を進めています。

ブッシュ政権は、インドとの原子力に関する条約について、2008年のIAEA 認可をうけ、ほとんどの貿易障害を取り除きました。現オバマ政権が成立して以来、インドとの原子力に関する貿易改善は皆無に等しいのに対し、ロシアと中国は、ユーラシア諸国との原子力を通した関係を急速に広めているのです。

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韓国の躍進

2009年12月27日、韓国はアラブ首長国連邦と4兆円にも相当する原子力施設の建設に関する条約を結びました。これはフランスおよび米国・日本の共同交渉を退けた明快な例となり、韓国が発展途上の地位を離脱したことを宣言する出来事となりました。更に、同国は2030年までに80基の原子力発電機を輸出する計画を掲げており、原子力が発展途上国を近代化させ得る重要な役割を果たしていることが分かります。

韓国の原子力エネルギー機構の前委員であるイ・チャンクン博士は、その記事の中で、韓国初代大統領である李 承晩 (イ・スンマン)政権下の1958年、韓国が米国と協力しながら、どのようにして原子力の発展を進め、植民地主義および戦争からの傷を克服し、豊富な電力を供給すると共に、若者たちを物理学の最先端へ導いたかを述べています。イ博士は、過去50年の間に、原子力テクノロジーを発展させることで先進国の仲間入りをした国は、韓国以外には存在しないと語っています。

韓国のアラブ首長国連邦との契約締結は、驚嘆すべき出来事ではありません。過去30年間、韓国は原子力発電において一度のミスも犯しておらず、93.3%という世界最高の原子炉利用率(Reactor Utilization Rate)を誇っており、原子炉の建設を他のどの国よりも早く、また安く行うことができるという事実が、それを示唆しているからです。また同国は、核融合原子力(Fusion)テクノロジーの先駆者にもなりつつあります。KSTAR は韓国の超伝導トカマク型核融合機として利用されており、訓練生や技術者などが、近い将来、国際熱核融合実験炉(ITER)の研究に参加していくことを目的としています。更に、数十年を目処に商業用核融合を成功させるためのデザイン等の研究も、既に始めているのです。

昨年12月のコペンハーゲン気候サミットからの帰国後、イ・ミョンバク大統領は、数年の内に、テクノロジーの分野において“独立”を達成する決意を公表しました。これは2014年に期限が切れるアメリカとの原子力貿易協定のことを指しています。現時点で、韓国は原子力発電の“完全サイクル”を担うことは難しく、精製されたウランを輸入し、更に使用済みの燃料を再利用できず、貯蔵することを強いられています。核拡散防止条約圏では、韓国を含む全ての国に完全サイクルを導入する権利があるのです。

米国の核拡散防止を唱えるマフィアたちは、その権力を駆使し韓国の独立権の阻害を謀っていますが、今日の韓国に見られるアジア諸国の“原子力ルネッサンス”は、それらの外的圧力をも退け得る可能性を秘めているのです。事実、イ大統領政府は、2015年を目的としていた“テクノロジーの独立”を、“数年以内”に行う意向を表明しているのです。

東南および西南アジア

東南および西南アジア諸国にとって、韓国の“原子力革命”は重大な意味をもっています。韓国はアラブ首長国連邦だけでなく、完全サイクルの可能性を秘めた研究用原子炉をヨルダンに建築中であり、トルコとも交渉を始めています。いわば、東南アジアは、韓国により触発され、眠りから覚めているということです。Westinghouse により1970年代から1980年代にかけてフィリピンに建設された原子炉は、これまで一度も使われことがありませんでした。これはジョージ・シュルツやポール・ウォルフォウィッツなどにみられる親英派、所謂ネオコンと呼ばれる輩が率いた1986年のクーデターによるフェルディナンド・マルコス大統領排斥が主原因となっています。バターンに建設された原子炉は、韓国に建設されたWestinghouse のものと同型であり、韓国の輸出用原子炉は同様のものをモデルとしています。フィリピンを訪れた韓国のチームは、ほこりを被り25年眠り続けていた原子炉が再利用できることを確認し、更に、新たな原子力施設の建築を援助する意向を明らかにしています。

マレーシア、タイ、インドネシアなどでも同様であり、歴史的“大英帝国”および“蘭帝国”の勢力が妨害工作を行わない限り、彼らの長年の夢である“経済的独立”を果たす瞬間を目前にしているのです。韓国は、原子力テクノロジーによる近代化のモデルであり、また第三世界を発展させるための原子力エネルギー配給国でもあるのです。既に、数百人の東南アジアの若者が韓国で訓練を受けており、この関係は広がりつつあります。

東南アジア諸国の中で、最も原子力化が進みつつあるのは、1945年から1975年までフランスおよび米国によって30年の植民地政策に苦しんだベトナムだといえるでしょう。自国の独立のために戦い続けたこの国は、2014年に4基の原子力発電施設の建設を始めることを誇らしく掲げています。ベトナムは、ロシア、日本、韓国と原子力同盟を締結しました。どの国が実際の建設を引き受けるかは、未だに協議が続いています。日本は数十年の間、アジアでの“原子力の宝庫”であったにもかかわらず、1980年代より蔓延る“西洋式”反核運動に追従してしまったのです。しかし、最近になり、日本も2019年までに19基の原子力発電所を建設する計画を発表し、更に2030年までに国内原子力エネルギー生産量を25%から40%へ拡張する決意を固めました。日本にとって、米国に籍を置くWestinghouse とジェネラル・エレクトリックとの協力を通し、原子力テクノロジーの実践的産業化、および更なる工業化を図ることが、これから拡張する原子力の分野を担う上で、重点となっていくのです。

西洋の衰退

欧米における1980年代以降の原子力テクノロジー衰退による影響を顧みれば、人類が生き残るためには原子力への帰結が必要不可欠なのは明らかです。しかし、欧米における原子力産業の崩壊と政府および人口の頽廃および洗脳などにより、欧米諸国は今日に至るまで、新たな“暗黒時代”を克服するための復興事業を採用できずにいるのです。

マサチューセッツ州立原子力研究所主任ジェームズ・マカハイド氏は、2005年6月24日付けのEIR の中で、世界総人口が2050年までに適当な生活水準を得るには、全世界で6000基の原子力発電所が必要となり、それと同時に核融合(Nuclear Fusion)の発展を躍進させることが不可欠であり、今世紀半ばまでに、現在の核分裂を原則とした原子力発電法(Nuclear Fission)から核融合原子力への変換を図らなければならないことを明確にしています。

しかし現状は、世界規模でみても、一年に30基の原子力施設を建設するのが精々であり、日本、ロシア、中国のみが、辛うじて軽量水力原子炉に必要な容器等を製造する技術を持ち合わせているという状況なのです。

アメリカ合衆国は、1970年代の見積もりによると、2000年までに1000基の原子力施設を完成させることになっていますが、現在(2010年)、たったの104基に止まっており、その中で一基のみが運用されているという惨状です。更に米国は唯一の原子力発電用施設(Breeder Reactor)を閉鎖し、核融合原子力事業の窓口さえも狭め続けているのです。しかし、この種の破壊的政策は二次的惨害をもたらすことになります。即ち、これらのテクノロジー、精密機械、科学者、そして多種にわたる“職人”たちは、一度失われると簡単には取り戻すことができず、その復興自体に多大な費用および労力が浪費されることになるということです。

寡頭制(Oligarchy )の伝統が未だ蔓延るヨーロッパでは、この事態は更に深刻です。1980年、スウェーデンでは国民投票が行われましたが、選択肢は原子力削減の“手段”のみであり、ドイツでは、1998年に選出された赤(SPD)と緑(Green党)の連合政権により、原子力を完全に廃止する法を可決するに至りました。イタリアは、1986年のチェルノブイリ事故以後、最後の原子力施設を閉鎖しましたが、物理経済は悪化し続け、今日の破綻にいたっているのです。この三国は、現在の世界経済危機をうけ政策の転換を模索していますが、その勢いは軟弱極まるものです。

フランスは世界で最も多くの原子力エネルギーを消費し、59基の原子力発電所は国内電力の76%を担っています。しかし、仏産業は未だに原子力施設を世界に輸出しているにもかかわらず、国内においては現在たった一基が建設中であり、更に仏政府は一時間にキロワット単位で“3ユーロ・セント”のコストを誇る原子力発電ではなく、“58ユーロ・セント”かかる太陽電力を推進し、補助金さえ配給しているのです。ヨーロッパ全土が、この太陽発電および風力発電の“虚構”に酔い痴れるうちにも、原子力産業は、物理経済基盤と共に消え去りつつあるのです。

この状況下で最も非常識な例は、欧州連合(EU)による、旧ソビエト諸国が保有するロシア製原子力施設を、EU 参加を条件に閉鎖することを強要しているという事実です。ブルガリアは2006年、いやいやながらも発電施設二基を閉鎖、スロバキアも2008年に最後の原子力発電所を閉鎖に追い込まれ、リトアニアは、フランスに続き世界第二位の原子力エネルギー消費率(72.89%)を保っていましたが、今月(一月)、ヨーロッパ諸国と協定をむすぶために、唯一の原子力施設を閉鎖することを強いられました。皮肉なことに、リトアニアはその後エネルギーの欠乏により、その供給をロシアに頼ることになります。これらの国々は、“認定された種”の原子力を導入していますが、これまでの崩壊を補うには数十年はかかるとみられています。

現時点において、文明を今日の“狂気”から救い出すのは“世界規模の大事業”であり、原子力を掲げるアジアが、“鍵”となっているのです。

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